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西村七海|アーティストインタビュー

絵画から彫刻へ 彫刻から絵画へ
ホテルグランビア広島のロビーなど商業施設の壁画制作からデジタルのペインティング作品まで手掛ける西村七海(にしむらなつみ)。しかしじつは大学では彫刻を専攻しています。力強いラインをベースにした画風はどこから生まれたのか、伺いました。

最近の活動を教えてください。 

2018年2月にホテルグランヴィア広島での壁画制作を行いました。「広島」をテーマに、ということだったんですが、宮島や原爆ドームなどメジャーなものを全面的に出しては描きたくなかったんです。そこで、「鯉」を図案化し、要素だけを散りばめる形で表現しました。

 
また9月にもekie(広島駅ビル)にできたカレー店ekispiceの開店に合わせて、壁画を制作しました。

 

11月にはお世話になっているお店の壁面を借りて、期間限定でドローイング展をしました。 

 

 

 最近はペインティングを中心に活動されていますが、彫刻専攻なんですよね。

もともとマンガが好きだったんです。マンガのような絵をかいていたら、褒められて、美術系の高校、大学に進んだという格好になります。高校では、2年次に専攻を決めるときに彫刻科を選びました。作画についてはすごいやつが何人もいて、どうやったらもっとうまく絵を描けるだろうかと考えた結果というところなんです。だから順番としては、絵がうまくなりたいから彫刻をやっていたという流れになります。それと、両親がともに陶芸家ということもあって、粘土などは家に身近にあったというのも少なからず影響は受けていると思いますが。

彫刻に取り組んでいることで、絵画にも効果のようなものがあるんですか?

彫刻制作のためにもデッサンはするのですが、絵画のデッサンとは性質が違ってくるんです。絵画の場合、光と影で表現する要素が大きくて、陰影が表現の中心になってきます。その点彫刻の場合は、物体の量感を表現するデッサンを学びます。なので、結果として同じものを対象としても、表現方法が異なってくるのです。

彫刻制作でも評価されているんですよね。

ありがたいことに卒業制作は優秀賞に選ばれ、大学の買い上げとなりました。"Hopeful drowned body"というタイトルのセメント彫刻で、若者特有の万能感をテーマとした作品です。希望にはあふれている、しかし同時に今後の人生設計もしていかなくてはならないその狭間で浮き足立っている様子を、溺れる頭部、宙を向く足、そしてセメントの重さで表現したものになります。

 

素材にセメントを選んだのは、なにか理由があったんですか?

じつは巨大な木彫作品を作ろうと思っていたこともあったのですが、大学3年次にドイツに留学していて、帰国してからの制作スケジュールの都合上、木彫は難しかったんです。その点、セメントは型取り工程こそ手間がかかりますが、期間的には工面ができそうだったという理由になります。

しかしながら、セメントという素材の特性上、数百kgの重量になってしまい、修了制作も1トンほどになります。となると、なかなか展示の機会も限られてしまいます。

 ペインティング作品について、教えてください。

やっぱり影響を受けているのはミュシャですね。一時期高校のころものすごくミュシャを模写していた時期もあって。線的な模様で立体物を表現する手法は大いに影響を受けていると同時に、アウトプットの方法もポスターなどプリント作品で、共通点があると思っています。

もともとはかっこいいマンガの絵から受けている影響が大きくて、「AKIRA」の大友克洋さん、「NARUTO」の岸本斉史さん、それから寺田克也さんの作風の影響は受けていると思います。精密でありながらデフォルメしている、そんな彼らの画風は、フランスの漫画家メビウス(ジャン・ジロー)にルーツがあることを知って、メビウスの作品も改めて研究しています。

よくタトゥーみたいと言われることもあって、たしかにタトゥーにも興味はあるんですが、 痛いのは嫌で。なので、そういう欲求を絵に描いて発散している側面はあるかもしれないです。

プリント作品ということで、制作はどのように行われていますか?

iPadをよく使っています。カフェなんかで作業したりしていますね。デザイナーや漫画家さんが、液晶タブレットやペンタブレットでやっていた人が最近はiPadやApple Pencilの性能が上がってきて、乗り換える人も増えていると聞くので、そんなに珍しいことでもないのかのと思っています。

モチーフは人物が多いようですが。

そうですね。気になった人を描いたり、あとは描いてほしいとオーダーがある場合もあります。写真をベースにしますが、単純なコラージュではなく、トレースする要領で画像を参考になぞりながら作画しています。

人物像が外国人みたいとか、あとは現実感がない、と言われることがあるんです。たしかに顔面の凹凸が深い人のほうが、彫刻をやっていると味が出るという面はあると思うんですけど、自分ではそれほど意識的にやっているわけではないんですよね。自分自身が、ポルトガル人の母と日本人の父の間に生まれ、日常的に目にするのは外国人である母親で、知り合いも顔の彫りが深い人も多い。自分自身の顔もアジア人の要素、西洋人の要素がある。そんな環境のせいというところはあると思います。人物を描くと自分自身に似るというのはよく言われることなんです。

今後はどのような展開を考えていますか?

じつはこの春から拠点を広島から東京に移すんです。それにともなって、彫刻制作はいろいろと制約もあるので、絵画を中心に活動を続けていく予定です。

彫刻、iPadでの制作、壁画と多彩な手法への取り組みが、独特な表現の背景にはありました。今後はどんな展開を見せるのか、楽しみです!

※TAMENTAI GALLERYでは近日取り扱い開始予定です。